突然辞めたときにはぜひ

会社を突然辞める人間には、かなり出会いました。

遅刻や早退や無断欠勤がだんだんと多くなり、
「あーなんか辞めそうだな」
と思ったら、徐々に来なくなり、フェードアウトするように辞めていってしまう人もいました。そうなると、残った荷物はどうするかと言えば、
「適当に処分しといて」
なんて、上司から指示されたりします。破産管財人か。

私の聞いた話では、そんなフェードアウトちゃんの一人が、正式に辞めることになって、もう面倒なので残った私物は全部捨てちゃおうということになったそうです。でも一応、かろうじて音信を保てていた同僚が、
「全部捨てるけど、本当にいいの?」
とメールを送ったそうです。
すると、
「やっぱり絶対家に送って欲しいものがある」
との返事が。そうでしょう、そうでしょう。手書きの「自分なりのマニュアル」や、世界地図など、どの会社に行ったとしても、いつまでも使えるもんね。と思ったら、
「机の二番目に入っている、織田裕二のクリアファイルを家に送って」
と続いていたそうです。

旅行会社には、OAGやABCという冊子が、毎月海外から来たりしました。
JRの時刻表の全世界航空版です。オンラインで情報が取れるこの時代、ほとんど必要ないと思うのですが、一部のおじさんたちには根強いファンがいます。端末を見るよりも、
「OAGの方が早いから」
なんていわれたりします、いえ、決してそのようなことはないと思うのですが・・・。何より時刻表には、空席状況も載ってないし。

地域ごとに分冊で、時刻表なみの厚さの冊子が5、6冊ドカッとやってきます。私が好きだったのは、これの付録の世界のエアポートガイドや、世界の航空網という薄い冊子。世界のエアポートガイドには、ちっちゃなアメリカの空港のターミナル図が載っていたり、航空会社と機材ごとに座席配置図が書いてあったり、ちょっと説明したりするのに、とっても便利。私が持っているのは、もうすでにボロボロで、日付も20世紀のもの。しかし、もし、私が諸事情でフェードアウトするようなことがあるとしたら、何はともあれ、この冊子だけは家に送って欲しいと思います。