いつまでも転び続ける女

小さい頃は良く転んだ。いつも膝か肘がすりむけていた。一度、小学校の下駄箱の前で転んだとき、膝の皮が大きくむけてしまったため、しばらく経って下駄箱に皮が落ちていないか探しに行ったことがある。その皮さえ貼り付ければ治るような気がしたのよ。キャーかわいい〜私。

しかし、もういい加減、私も大人になって随分たつ。それなのに3年に一度くらい大きな転倒チャンスがやってくる。「えっと、私、よくコケるんですぅ」という男心をくすぐる(たぶん)事を言う女の子がいるが、私の場合「コケる」なんてものではなく、「スっころぶ」なので、自己アピールとしては豪快すぎて使えない。そのたびに驚異的運動神経のよさを見せるため、大事には至っていないが。

最新の転倒は先月。通勤途中の駅で、電車が入ってくるときに階段を急いで下ってそのまま転倒。ぐるんぐるん転がってようやく着地したはいいが、目の前にいたオッサンは目を丸くして私を見ていた。驚くのはいいから助けよ。根性で、来た電車に何食わぬ顔で乗り込もうと立ち上がりかけたが、電車から降りた親切な女性が2人、助け起こしてくれた。見れば階段にすごい流血。「ギャ〜死ぬわ、私、死ぬ!」と思い、助けてくれた女性に、「どこ?どこから血が出ているんでしょう?」と聞くと、その女性、私の顔を見て「アレ?血が出てない」と不思議そうに言っていた。

よく見れば、血が流れているのは膝で、それはもう、普通では考えられないくらいの量。その日、私の年では掟破りとされている、ハイソックスを着用していたのだが、そのハイソックスはこげ茶色。そして靴もこげ茶色のスエードのため、まあ、ある意味血にとっては保護色。しかし、血は足を伝って階段に吸い込まれてゆく。ヒエ〜死ぬわ、私、今すぐ死ぬ!

しかし、こういうとき、通勤途中だろうにちゃんと見捨てずに付いていてくれるこの女性達のような人間に、私もなりたい。次に誰かスっころんだ人を見かけたら、まよわず手を差し伸べてあげようと心に誓った。誰か私の目の前で、今すぐ転んでくれないものか。

結局、駅の事務室に連れて行かれて、応急処置をしてもらうことに。包帯を巻いてもらい事情聴取をされて、住所と名前を書いておしまいだった。年は聞かれなかった。もし本当の年齢を書いて、ハイソックス履いていることに内心驚かれたりしたら、もうこの駅は二度と使えん。