映画にまつわる下らない話

かなり昔のこと、「ハンガー」という吸血鬼映画があった。私が見たのももうすでにそれが名作として過去の作品になった頃。当時、ヒマはたんまりあるけどお金はさっぱりない大学生だった私は、「ぴあ」で『吸血鬼映画三本立て』をしている名画座に行った。その『吸血鬼映画三本立て』はかなり上質な内容で入場料900円。内容は、デヴィッド・ボウイカトリーヌ・ドヌーブ主演の「ハンガー」と、ナスターシャ・キンスキー主演の「キャット・ピープル」、そしてあとひとつは全然覚えていない。でも3本立てだったのは確か。

なぜなら、その名画座ではいつも何かツボを押さえた3本立てが得意で、「マイケル・ダグラス特集」では「コーラスライン」「ナイルの宝石」「ロマンシング・ストーン」の3本で、「キム・ベイシンガー特集」では「ナイン・ハーフ」「ノー・マーシー」「ブラインドデート」の3本だった。つらいのは、同じ俳優が同時期に主演した3本だと、だいたい役柄も話も似通っているためか、各々2本までしか覚えていない。「ナイルの宝石」と「ロマンシング・ストーン」など、もうごちゃごちゃで一本の作品のように覚えている。

いつもは誰も付き合ってくれないので一人で行っていたが、当時ボウイのファンの男が行きたいというので一緒に行くことになった。しかしヤツは段取りが命の男。「ぴあに出ている時間で間違いない」という私の抗議を無視して、映画館に電話をかけて上映時間を聞くことに。「お前が確認しておけ」というので、このB型のいばりんぼに腹を立てながら、映画館に電話をしてみた。

『ハンガー』は何時から上映かと聞くと、意外にも「ハンガーはやっていない」という返事。私が絶大な信頼を置く「ぴあ」に書いてある事が間違いだってわけ?それとも、前に上映していたヤツがあまりにも好評で、上映期間延長になったあおりを食らったか。

「では『ハンガー』はいつからやるのでしょうか?」と尋ねると、「ハンガーは当分やる気はないね」との返事。なっ、なんて強気な。一体じゃあ何を上映しているのかと思い、「今は何をやっているのでしょうか」と聞くと「今は主に『ドアノブ』だ」。『ドアノブ』。ド・アノブ。フランス映画か。念のため「○○映画館ですか?」と聞くと、「いや、○○工業所だ。」との答え。やっぱりね。間違い電話だと、うすうす気づいてはいたんだけど、あまりにハマっていたもんで。