防災訓練に燃える男

年に一回防災訓練がある。一応会社では、全員にヘルメットを支給し、そのヘルメットをかぶって一階ロビーまで階段を使ってくだり、その後解散というスケジュールだ。部内には一人防災責任者がおり、部内の人間を誘導したりする役割。その責任者のヘルメットは、特別色の赤。しかも、なぜか名入りである。防災責任者だけにはなりたくない。

私の部の責任者は50代の男性。窓側にいて「社長付け」という、何をしているかわからない玉虫色セクションのお方。訓練開始は3時半なので、私を含め他の社員は、とりあえず3時の社内便で届いた書類などのチェックに余念がなかった。その時間は、一日の中でも結構忙しい時間帯。

その時、私の視界の隅を赤いものがチラリと横切った。ま、まさか・・・!思わず二度見してしまったが、それは赤いヘルメットをかぶって自席でスタンバっている防災責任者だった。赤ヘルに、白抜きの名前が鮮やか。時計を見ると3時20分。何か生唾を飲み込んでしまった。

その後、3時半まで彼はその態勢。3時半に訓練開始の放送が流れると、「ハイ!避難開始ー!」と言って、照明を片端から消してゆくので、みなつられて避難し始める。しかし、その時ヘルメットをかぶっていない人に容赦なく、ダメ出しの声が飛ぶ。「社長付け」の実力を思い知った日であった。

その後、一階で訓示などを聞き、みなは解散。しかし、全社の防災責任者はさらに屋上でシューターの使い方、消火器の使い方などの訓練があったそう。そしてそこでも、社長付け社員は、率先して訓練に参加し、消防庁の人にほめられたそう。日ごろの仕事も、そこまで攻めの姿勢で行って欲しいと誰もが思った。

そして、他の人たちがもうすっかり業務に戻った4時半、防災責任者が帰還。誰もが防災訓練の事を忘れて仕事に没頭していたが、その時私の視界の隅を赤いものがチラリと横切った。ま、まさか・・・!席についてからも意味もなく10分近くヘルメットをかぶり続けていた模様。年に一度のあなたのお祭りの日は終わったのよ・・・。